質問:「ピエロ」と「クラウン」って別物ですか? 違いがあるなら教えて下さい。 同じようなイメージの言葉に「ジェスター」や「ジョーカー」がありますが、この2つについてもお願いします。
回答: まず、この4つの言葉の意味を見比べてみましょう。 次の通りです:
- ジェスター ・・・ 中世の王侯貴族のお抱え芸人
- ジョーカー ・・・ 冗談を言う人、愉快な人、ヤツ、トランプのジョーカー
- クラウン ・・・ 喜劇の道化役(役柄)、サーカスの道化師
- ピエロ ・・・ 喜劇のキャラクターの名前(個人名)
すでに違いは明確ですが、詳しくは以下をご覧ください。
1. ジェスター(jester)
ジェスターは中世の王侯貴族のお抱え芸人です。
ジェスターは派手でひょうきんな衣装と帽子を身に着け、歌・演奏・物語・曲芸・ジョーク・手品などで王侯貴族の客人を楽しませました。 こうしたパフォーマンスは概(おおむ)ね、おどけた調子で行われました。
町中で民衆を相手にこうした芸を披露する大道芸人も「ジェスター」と呼ばれました。
"jester" の語源
"jester" という英語の語源は、「吟遊詩人」や「お笑い芸人」を意味する中世英語 "gestour" です。2. ジョーカー(joker)
英語の名詞 "joker" の主な意味は次の通りです:
- 冗談好きな人、愉快な人。「joke + -er」から推測されるそのままの意味
- 馬鹿なことをする人
- 軽蔑的に人を指す言葉。 「ヤツ、野郎、あのアホ」など
- トランプの「ジョーカー」。 この意味では "the Joker" という使い方
- (ピンチを切り抜ける、何かを達成したりする、あるいは誰かに勝つための)切り札
- 契約書や法律などの条項であって、一見は無意味に見える(あるいは曖昧である)が実は重要な意味を持つ(契約書や法律の趣旨を台無しにしたり趣旨を大きく変える)もの
- 盲点、当初は予見していなかった思わぬ問題点や困難
また、トランプの「ジョーカー」の意味から転じて:
トランプの「ジョーカー」の由来
トランプのカードに「ジョーカー」が追加されたのは19世紀(1860年ごろ)の米国です。 トランプの遊び方の1つ「ユーカー(euchre)」で最も強力な手札としてジョーカーが追加されました。
1863年に作られたジョーカーのカード
やがてジョーカーは他のトランプの他の遊び方(ポーカーなど)にも使われるようになり、1871年には英国のメーカーが米国市場向けにジョーカーを含むトランプのセットを販売し始めました。
ジョーカーのカードに描かれる人物は、クラウンであるともジェスターであるとも言われます。
トランプの「ジョーカー」の由来として、次の2つの説があります:
- 「ユーカー(euchre)」の語源に当たるドイツ語 "Juckerspiel" の "Jucker"。
- 「ヤツ、野郎」の意味での "joker"。
3. クラウン(clown)
サーカスの道化師のイメージ(*)の「クラウン」は、英国で 1800年代初頭に上演されたハーレクイネイド(英国の演劇の一種)の役柄の1つ「クラウン」に由来します。3.1. 当初は「愚鈍な笑われ者」
ハーレクイネイドが誕生して間もない頃、クラウンは「道化師」ではなく「愚鈍な笑われ者」でした。 つまり、人を笑わせるのではなく馬鹿にされ笑われるキャラでした。3.2. "clown" の元々の意味
クラウンが当初「愚鈍な笑われ者」だったのは、"clown" という英単語のイメージが「愚鈍な笑われ者」だったからです。
英語の名詞 "clown" は16世紀には「田舎者、無教養な農民」という意味でした。 また、シェイクスピアの作品(*)で愚鈍なキャラクターの名前として "Clown" が用いられています。3.3. "clown" の意味の変遷
"clown" は次のように意味が変わったわけです:
- 無教養な農民
- 愚鈍な笑われ者
- 道化師
3.4. サーカスの道化師
サーカスに登場する道化師(*)は、英国の喜劇に登場するクラウンに由来します。 1768年にフィリップ・アストリーという英国人が、サーカスに初めてクラウンを取り入れました。4. ピエロ(Pierrot)
4.1. 初出
ピエロの起源は 1665年にフランスで公開された喜劇『Dom Juan ou le Festin de pierre』に登場するキャラクターの名前「ピエロ(Pierrot)」です。 作中で描かれる「ピエロ」は純朴で愚鈍な農民でした。
「ピエロ(Pierrot)」は男性の名前「ピエール(Pierre)」が変化して生まれた名前です。
現実世界でのピエロをイメージした絵画
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4.2. 定着
『Dom Juan ou le Festin de pierre』の後も「ピエロ」というキャラクターは他の演劇作品に使われ続けました。 こうした作品においてピエロは気落ちした表情を特徴とする残念なキャラクターでした。 からかわれたりイジメられたりしては稚拙な仕返しをしたり、傷ついた心を誤魔化そうとイタズラをしたり他人を罵ったりという具合です。
4.3. 変化
1800年代になると、「ピエロ」というキャラクターに変化が生じました。 ピエロはもはや粗野で愚鈍な農民ではなく、洗練された物腰で自信に満ち、それでいて優しくイタズラっぽく感受性が強いキャラとなりました。「道化師」に近いイメージとなったのです。5. クラウンとピエロの比較
5.1. 由来に共通点
クラウンとピエロは、どちらも16世紀のイタリアで生まれた「Commedia dell'arte(プロの役者による演劇)」と呼ばれる種類の喜劇に由来します:
- "clown"を「道化師」の意味で用い初めた英国の演劇ハーレクイネイドは、「Commedia dell'arte」の影響を受けて生まれた。
- ピエロの起源となった作品『Dom Juan ou le Festin de pierre』は17世紀にフランスで生まれた喜劇「Comédie-Italienne(イタリアの喜劇)」に属するが、この「Comédie-Italienne」は当初は「Commedia dell'arte」そのものだった(のちにフランス的な要素が取り入れられた)。
5.2. ピエロとクラウンの違い
言葉の用途の違い
- 「ピエロ」は本来はキャラクター名(演劇に登場する人物の名前)。 つまり、元々は人名であり固有名詞。 常に "Pierrot" と大文字で始まる。
- 「クラウン」は「道化役」という役柄を意味する普通名詞。 ただし、キャラクター名(固有名詞)として用いられることもある。
したがって、「道化役」の意味での「クラウン」は意味の範囲に「ピエロ」を含みます。「ピエロ」というキャラクターが「道化役」の一種だからです。
また、「サーカスや大道芸のピエロ」と言うときの日本語の「ピエロ」に対応する英語は "Pierrot" ではなく "clown" です。(*)
外見の違い
- ピエロは白。 顔には白粉(おしろい)を塗り、衣装も白。
- クラウンは派手。 鼻を赤色に塗り、ニカニカ笑う印象が出るように化粧をする。 日本人が持つ「ピエロ」のイメージに合致するのはこちら。
ピエロの扮装
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生息圏の違い
- ピエロは文化的。 バレエ、オペラ、絵画など高尚な芸術に登場する。
- クラウンは大衆的。 サーカスや遊園地で活躍。